政府が「異次元の少子化対策」と舵を切ってから、改めて話題となっている「○○の壁」。
女性たちの「働く意欲」を阻み、人手不足の一因になっている状況を受けて、今後、この「年収の壁」が見直しされることも想定されます。

103万円の壁とか130万円の壁とか、何となくはわかるけど、実はよくわかっていないんだよね。



大まかにいうと「103万円の壁は税扶養」「130万円の壁は社会保険の扶養」と位置づけられているけど、最近は新たに「106万円の壁」「150万円の壁」が出てきて、混乱するよね!
- 年収の壁を理解できる
- 今後の働き方を見直しできる
今後の改正も見据えて、自分に合った働き方を選択できるように、現制度の「年収の壁」をわかりやすく解説しています。
年収の壁を知る
今回は配偶者の扶養を想定し、扶養の範囲内で働く【年収の壁】について解説しています。
2023年の6月時点の情報をもとに掲載しています。
最新情報を必ずご確認ください。
103万円の壁とは
「103万円の壁」とは、いわゆる“ 税扶養 ”と呼ばれる【所得税法上の扶養判定】のこと。
所得税には「扶養控除」というものがあり、扶養親族の数に応じて、一定の金額が所得から控除される仕組みが設けられています。
この扶養親族の対象の一つに、「年収103万円以下」の要件があります。
[配偶者を扶養している場合]
毎月の所得税計算で【扶養親族に応じた所得税が適用】され、年末調整の際には【380,000円の配偶者控除】が受けられる
年収103万円を超えると、この控除額が適用されず、税金が高くなるということです。
税扶養の収入要件
- パート収入等の給与収入のみ
年間総支給額103万円以下
(−55万円=所得48万円以下) - 公的年金収入のみ
65歳以上:年間受給額158万円以下
(−110万円=所得48万円以下)
65歳未満=年間受給額108万円以下
(−60万円=所得48万円以下) - パート収入等の給与収入と公的年金の収入がある場合
①パート収入等の給与所得+②公的年金収入の所得=48万円以下
- 失業手当/障害年金/遺族年金は非課税
- 通勤手当は一定以下であれば非課税
しかし、2017年度の税制改正から、配偶者の取り扱いが変更されました。
意外にもこちらが理解されていないのです。
配偶者の給与収入が年収103万円超の場合には「扶養対象外」となりますが、下記の要件を満たせば、103万円以下の場合と同様の控除が受けられます。
年収150万円以下(=源泉控除対象配偶者)の場合、年末調整の際に毎月の所得税計算で【扶養親族が1人とカウント】され、年収103万円以下の場合と同様の【380,000円の配偶者特別控除】が受けられる
また、年収150万円超(=源泉控除対象配偶者以外)〜201万円以下までは、段階的に控除額が減額されますが、配偶者特別控除が受けられます。



年収が103万円を超えても150万円以下であれば、年末調整の際に同額の控除が受けられるのに、何でいつも【103万円以下】の働き方にこだわるの?



そうなんです!実は「会社独自の家族手当」が要因なんです。
会社の制度で支給される「家族手当」の要件が年収103万円以下となっている場合が多い
=「家族手当」がない場合には【年収103万円以下にこだわらない働き方を検討する余地がある】ということです。
家族手当が10,000円〜20,000円と想定すると、年間120,000円〜240,000円となるわけです。
中途半端な働き方で高い税金をとられるよりも、扶養の範囲内で働いて税金が抑えられる方が、結果的に手取り額が多くなるということもあり得るわけです。
そのため【103万円以下の働き方】が根強く残っているんです。
106万円の壁とは
2022年10月に社会保険の加入要件が改正され、従業員数101人以上の企業で以下のすべて該当する場合は、勤務先で社会保険に加入することになります。
年間1,056,000円以上ということで、「106万円の壁」が新たに出てきたのです。
社会保険の加入条件
- 月額賃金88,000円以上
- 雇用期間が1年以上見込まれる
- 1週の所定労働時間が20時間以上
- 学生でない


130万円の壁とは
「130万円の壁」とは、“ 社会保険の扶養 ”と呼ばれる【社会保険法上の扶養判定】のこと。
社会保険とは「健康保険」「国民年金第3号」のことで、原則、年収130万円未満とされています。
ただし、退職した場合は、要件を満たせばすぐに加入できる場合があります。
詳しくは健康保険協会や健康保険組合、年金事務所にご確認ください。
社会保険の収入要件
- 同居(同一世帯)の場合
年収が130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は年収180万円未満)かつ、被保険者の年収の2分の1未満であること - 別居の場合
年収130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)かつ、被保険者からの援助による収入額より少ないこと
①被保険者と同居・別居していてもよい人 |
配偶者(内縁関係も可)、子、孫、兄・姉、弟・妹、父母・祖父母などの被保険者の直系尊属 |
②被保険者と同居していることが条件の人 |
①以外の3親等内の親族、被保険者の配偶者(内縁関係も可)の父母・連れ子、配偶者(内縁関係も可)死亡後の父母・連れ子 |
- 失業手当の受給期間中は扶養不可
(自己都合退職等の給付制限中は除く)
※日額が基準額以下の場合は扶養可 - 障害年金/遺族年金は収入に含める
- 後期高齢者医療制度の対象者は扶養不可
(75際以上:同居・別居問わず)



年収130万円を超えていたとしても、退職した場合には扶養に入れる場合があるんだね!



そうなんです!社会保険は退職時点でリセットされ、必要書類を提出すれば扶養に入れる可能性があります。
その後、アルバイトをする場合でも、月108,333…円(130万円÷12カ月)未満で働けば扶養を継続できますよ。
150万円の壁とは
「103万円の壁」でもお伝えした通り、2017年度の税制改正から、配偶者の取り扱いが変更されました。
これが「150万円の壁」が生まれた背景です。
配偶者の給与収入が年収103万円超の場合には「扶養対象外」となりますが、下記の要件を満たせば、103万円以下の場合と同様の控除が受けられます。
年収150万円以下(=源泉控除対象配偶者)の場合、年末調整の際に毎月の所得税計算で【扶養親族が1人とカウント】され、年収103万円以下の場合と同様の【380,000円の配偶者特別控除】が受けられる
また、年収150万円超(=源泉控除対象配偶者以外)〜201万円以下までは、段階的に控除額が減額されますが、配偶者特別控除が受けられます。
働き方の見直しを検討
事例紹介
2023年6月13日(火)に毎日新聞の記事に掲載されていた、特定社会保険労務士さんの「社会保険回避へ 2カ所でパート 働く負担大きく」の記事をご紹介したいと思います。
機械部品メーカーで働くA子さんのケース
社会保険に加入回避のため、2カ所でパート勤務することにしたA子さん。働く負担が大きく、社会保険の加入を検討しているといいます。
・1日5時間、週5日パート勤務
・勤務時間:午前9時〜午後3時
・時給:900円
・夫の扶養家族
社会保険料負担なし
夫の会社から月15,000円の家族手当支給あり
・1日6時間、週3日に勤務時間を削減
・勤務時間:午前9時〜午後4時
・時給:900円
・スーパーで副業:
1日5時間、週2日パート勤務
※副業なので確定申告が必要になる
2022年10月1日から従業員101人以上の企業は、一定の条件を満たすと、社会保険への加入が義務付けられました。
社会保険の加入条件
- 月額賃金88,000円以上
- 雇用期間が1年以上見込まれる
- 1週の所定労働時間が20時間以上
- 学生でない
A子さんも勤務先で社会保険に加入することになると、自分の手取りが減るだけではなく、夫の会社から支給される月15,000円の家族手当もなくなり、世帯収入が減ることを懸念、「社会保険に入りたくない」と考えました。
会社は「手取りが減るので社会保険に入りたくない」と考えるパートに2つの選択肢を示しました。
①勤務時間を1時間延長する
(週25時間から週30時間勤務へ)
②勤務日数を減らし社会保険に加入しない
(週20時間未満へ)
A子さんが選んだのは②、勤務時間を減らし、減った時間に他社で働くことに。
2カ所で働くことのデメリット
- 機械部品メーカーの勤務は毎日出勤でなくなり出勤日の業務量の予想がつかない
- スーパーの勤務は勤務日数が少なく、同僚の名前や顔を覚えられない
- スーパーでは常に残業の打診があり、土日出勤不可と伝えていたものの、年末の繁忙期に断りきれずシフトに入ると、配偶者の扶養に入るための要件を超えそうになった(月収108,000円、年130万円)
- 2カ所の勤務だと副業先となるスーパーでは年末調整をしてもらえないため、確定申告をする必要がある
= 職場環境が異なる2カ所で勤務することは負担が大きいため、元の会社(機械部品メーカー)のみとし、社会保険に加入する方向で検討することにしました。



これまで社会保険料を負担していなかったから、正直抵抗があって。手取り額が減っちゃうし、社会保険に加入するメリットが感じられなくて。
社会保険に加入する・加入しないは選べないの?



社会保険料は高いから、手取り額が減るって考えると、社会保険に加入しない方がいいと感じる人が多いと思います。
社会保険に加入しないという選択肢はなく、条件を満たせば加入する仕組みになります。
でも、社会保険に加入することが必ずしも「損」とは言い切れないんですよ。
- 病気やケガで4日以上仕事を休んだ場合、健康保険制度から傷病手当金を受けることができる
- 出産の場合、出産育児一時金とは別に、出産手当金を受けることができる
- 厚生年金保険に加入することで、事故などで障害を負った場合や老齢となった場合の年金給付が手厚くなる
- 将来受け取る年金に影響する
厚生年金に加入することで、国民年金・厚生年金の2階建て年金が受け取れる


まとめ
複雑で理解しづらい「年収の壁」。
- 「103万円の壁」:所得税法上の扶養
- 「106万円の壁」:
社会保険の新たな加入条件 - 「130万円の壁」:社会保険法上の扶養
- 「150万円の壁」:
源泉控除対象配偶者として所得税法上の扶養と同様の控除額が受けられる基準
配偶者の税扶養の範囲内でパート勤務されている方も多く、毎年、年末調整に近づくにつれて働き方を調整されることもしばしば。
配偶者の会社で家族手当の支給がなければ、103万円以下にこだわらなくとも、150万円以下であれば同様の控除額が受けられるので【働き方を見直す検討の余地】があります。
ですが、中途半端に働いて「働き損」になるのは避けたいですよね!
税扶養内に抑えて働き、配偶者の所得税と住民税(一般的に年収100万円超で課税される)が減税される仕組みを活用してもよし。
逆にがっつり(年収200万円以上を想定)働くことで、夫婦共に税金は課税、社会保険料が控除されますが、扶養の範囲内で働くよりも、世帯収入はアップする可能性が高くなります。
また、自身が社会保険に加入することに抵抗がある方も多いですが、社会保険に加入することは必ずしも「損」とは言い切れないのです。
希望の働き方は、各家庭で異なります。
なにより、【年収の壁を理解した上で、働き方を検討する】ことが大事だと考えます。
改めて、ご自身の働き方の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
少しでもご参考になれば幸いです。
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